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【倉吉民藝ツアー〜白壁土蔵群・郷土作家の足跡編〜】ショートインタビュー

11月5日の『倉吉民藝ツアー〜白壁土蔵群・郷土作家の足跡編〜』に向け、ツアー中の解説・ミニ講座をご担当いただく渡邊太さんにショートインタビューを行いました。渡邊さんは以前より倉吉の民藝について調査され、「同人誌『意匠』と倉吉の民藝運動」など研究ノートも発表されています。ツアーに参加しようかな?と迷われている方へ、今回のインタビューがご参加いただくきっかけとなれば幸いです。

【プロフィール】 渡邊 太(鳥取短期大学 国際文化交流学科 教授)
大阪大学助教、大阪国際大学講師を経て、2018年に鳥取短期大学 国際文化交流学科 准教授に就任、2019年から教授、現在に至る。
著作等:「同人誌『意匠』と倉吉の民藝運動」、「芸術と労働」(共著)など

(文・聞き手:会見)

ツアーの詳細・募集ページはこちら


 

民藝との出会いを教えてください

── 今日は『倉吉民藝ツアー』に向けて、「参加しようかな?」と興味を持たれている方に向けた、ご挨拶的なショートインタビューです。「民藝とは」という基本的なところから、倉吉の民藝に見られる特徴など、ツアーの導入のような感じでお聞きしたいと思っています。

 まず、僕が倉吉の民藝に興味を持ったきっかけが、郷土玩具の『はこた人形』でした。そのはこた人形の周辺を調べていくと、人形の作り手であった備後屋の三好明さんと、倉吉で活動していた板画家の長谷川富三郎さんや染織家の吉田たすくさんとの、ジャンルを超えた交流があったことが分かってきて。それから『砂丘社』というグループもあったりで。この白壁土蔵群という一つのエリアに、しかもほぼ同時期にこれだけの作家が集まっていたということを知り、そこに驚きました。

 

▼ 倉吉張子(左から因幡の白兎、狐面、起き上がり、はこた人形、虎、因伯牛)

 

 この白壁エリアでかつて活動していた作家の動きを少しずつ辿っていくうちに、『これに特化したツアーが出来ないかな』という考えが浮かびました。参加者を募って一緒に巡ってみても面白いんじゃないかと。ただ、まだまだ知らないことも多いので、ご案内というよりは一緒に発見しましょう、というところではあるんですけど・・・。

 ツアー企画の経緯はこのような感じなんですが、実際にこのツアーを開催する上で、やはりコーディネーター的な立ち位置の方が必要だなと思いまして。そこで、倉吉の民藝運動について色々と調査をされている渡邊先生に依頼をさせていただきました。快く引き受けてくださりありがとうございました(笑)

 というわけで前置きが長くなりましたが、まずは渡邊先生が民藝と出会ったきっかけを聞きたいなと。

 

渡邊 倉吉に来る前は大阪にいたんですけれども、その時は「民藝」というジャンルがあるなぁぐらいの感じで。万博公園の民芸館とかも行ったことはあって、良いものがいっぱいあるなぁというぐらいの、一般人的な関わり方しかなかったんですけれども。倉吉に来てから、やっぱり長谷川富三郎きっかけですね。まちなかで、よく見る板画があるなあと思うじゃないですか(笑)

 

── これは何だろう、みたいな(笑)

 

▼長谷川富三郎「打吹童子」(ちなみに、今回のツアーでも立ち寄る「山陰民具」で購入したスタッフの私物)

 

渡邊 ちょうど明倫AIR(アーティストインレジデンス)の事業で長谷川富三郎とかを調べている現代美術の作家がいるらしい、と聞いて久保田沙耶さんというアーティストの方とつながりができました。いろいろな民藝の作家がいて、資料を調べたり話を聞いていったりすると、柳宗悦とも繋がりがあってとか、棟方志功もしばしば倉吉を訪れて、みたいなことが段々分かってきて。この人口5万人規模と前までいっていましたけれども、4万人規模になりましたが、かつて柳宗悦とかを招いて講演会をやったりしていたことがあったのか、ということにびっくりしたんですね。

で、ちょっと真面目に民藝を勉強してみようかと思って(笑)柳宗悦を読んだり、鳥取では吉田璋也という人が新作民藝運動を展開していって、みたいなことも分かってきて。やっぱり吉田璋也がいる分、鳥取の民藝というと東部が中心の印象が強いのかなあと。民藝美術館があるのも鳥取市ですし、たくみ工芸店も。有名な牛ノ戸焼も東部で。

ただ、中部で長谷川富三郎とかの足跡を調べていくと、中部は中部でかつて頑張っておられてたんだなというのも見えてきたし、窯元もたくさんあって。まあまあどこも後継者がいて。

 あとは会見さんも言われたように、いろんなジャンルの人が混ざっているところが民藝だけに限らず、鳥取の芸術・文化全体の特徴じゃないかと僕は思っているんですけど。ジャンルを超えた交流が盛んだと。それは、やっぱり人が少ないからだと思っていて(笑)写真の人だけ、とか陶芸の人だけ、とかだと人が少なすぎるので。創作活動とかをする人は、表現手段が何であれ一緒に関わっちゃう、交わっちゃうと思うんですよね。人が少ないだけに。

 

── 鳥取の人の少なさっていうのが、そういうところに現れてきている(笑)

 

渡邊 それがかえって良かったと思うんですね(笑)そういう源流、伝統を作ったのがやっぱり『砂丘社』だったんじゃないかと。自由律俳句の河本緑石とか画家の前田寛治とか、異なる表現を持っている人達が集まったうえに、「砂丘」という同人誌では前田寛治が詩を書いたりといった形で自分のメインの表現手段ではない手段を試したりとか、映画の上映会とか音楽会を開いたり、いろんな芸術を貪欲に吸収し表現していこうみたいな、ジャンル横断的な伝統が砂丘社によって作られたんじゃないか、というふうに思っています。

郷土玩具も、吉田たすくがまだ若くて織物の研究を本格的にやる前、敗戦直後くらいに長谷川富三郎から勧められて郷土玩具を作ってみたりとか、民藝展を開いたけれどもあまり売れなかったとか、エピソードがあって(笑)みんなやっぱり色々とつながっているんだなあと思いますね。そういうのが地方文化として面白いと、私は社会学専門なので、そういう観点で面白いと思ったんです。

 


 

民藝ってなんですか?

── ここであらためてお聞きしますが、一般的に「民藝」とはなんでしょうか。

 

渡邊 一般的にいうと「民衆的工藝」の略で、かつての庶民が日常的に用いていたような器とか、それを無名の職人たちが無心に作っていた、そういうものが美しいということを柳宗悦が発見したんですよね。名のある作家・芸術家が作ったものよりも、装飾性もなく日常の使用のための質実剛健みたいなものなのだけど、かえってそれが美しいという。柳宗悦の100年前の時代も、既に工業化が進んで機械による大量生産に段々と置き換わっていき、手仕事の美しい品物が失われつつある中で、そういうものこそが大事だ、暮らしの中に取り入れることが大事だといわれたのが理念としての民藝ですよね。

あともう一つ、民藝は『地域性』が重要なんですよね。日本列島は東西南北に長く伸びているので、地域によって気候風土が違い、地域の衣食住それぞれにあった手仕事・工芸品が地域ごとに発展していった。その地域に根ざした地方色のある品物を残していくことが大事なんだけど、工業化していくと画一的なものに段々となっていく。全国どこにいても同じものを使っていることに対する批判、批評的な意味合いもあったということですね。

と同時に、先日の中之島美術館の展示(※)で強調されていたのは、100年前に柳宗悦が「無名の職人が作った工芸品」に見出した美っていうのが、意外と同時代的なバウハウスなどのモダンデザインの運動、余計な装飾を削ぎ落とした「機能美」といわれるようなものと共通するというところですね。「機能美」と「用の美」は必ずしも重なり合うわけではないと思われるんですけれども、シンクロする部分があって。そういう意味では、伝統的なものを見直すリバイバル的運動であったとともにモダンデザインの運動でもあったという。だから90年代からのセレクトショップBEAMSが取り扱うようになった流れなどにも上手く乗ってきたんですよね。

(※)民藝 MINGEI −美は暮らしの中にある(大阪中之島美術館)今回のインタビュー前にこの話題になりました

そういう意味では不思議ですよね。伝統的でありつつ常に最先端であり続けている。100年前も100年後も。それでいくと100年後も民藝は残ってるでしょうね。

ただ、個々の手仕事については100年前から失われたものも数多いですし、何かしら民藝的なものは100年後も続くとは思うんですけれども、じゃあ『はこた人形』が100年後も作られているかどうかっていうのは、倉吉の人がそれを大事だ、郷土玩具・郷土の文化として意識的に継承していくかどうかにかかっていると思うんですよね。

 

── もしかすると今が瀬戸際ということも・・・。

 

渡邊 民藝家具とかもかつては注文が殺到したという時代もありつつ、今ではもう作り手がいないということになってしまう。でも、かえって骨董品としては何百万円出しても欲しいという人も一方ではいる。民藝の理念的には超高級品として残るのはまたちょっと違う、というとこですよね(笑)常に民藝の金持ちの道楽的な批判というのはあるんですけれども。

 

── 色々と矛盾も孕んでいますね(笑)

 


 

倉吉の民藝

── 今回のツアーは「倉吉の民藝」という少々マニアックと思われるテーマですが、倉吉の民藝に見られる特徴、地域性はどんなところがあるでしょうか。

 

渡邊 ・・・まあ一つは長谷川富三郎の存在感じゃないですかね(笑)

 

── 地元の方に聞くと、結構いろんなところに出かけていらっしゃって、活動的だなと。

 

渡邊 すごくアクティブで社交的なんですよね。

 

── 皆さん楽しそうに話されますね。

 

▼倉吉市内の飲食店、民家、さまざまな場所で板画作品を見ることができる(写真:三好額縁店)

 

渡邊 まあまあ押しが強くて(笑)自分の作品を色んな人が買ってくれた、持たせたみたいなところがあると思うんですよね。長谷川富三郎のキャラクターによるところも大きいっていうのと、学校の先生だったというところも大きいと思うんですね。倉吉だけでなく、鳥取中部、とりわけ小学校での版画教育が今でも盛んなところとか、長谷川富三郎の力が大いに及んでいるでしょうし、学校の先生として色んな人に影響を及ぼす、教育を通じて民藝的なものを伝えたというところや、社交的で柳宗悦・棟方志功などとの中央とのつながりをキープしてきたこと、東大寺の清水公照のような全国区で名の知れた人との社交も盛んで、しばしば倉吉に連れてくることによって地域で活動する人に刺激を与えたんじゃないかなぁと。長谷川富三郎の存在感は大きいなと思いますね。あとは吉田たすくや砂丘社の人達もそうで、中央で学んで地元に帰ってきて先生をして、そういうパターンが多いですね。

そして吉田たすくの実家の伊藤家がお金持ちで、パトロン的な感じで棟方志功を招いたりしていたわけですよね。やっぱり、医者ですね(笑)そういう意味では吉田璋也も医者ですし。お金のある医者の家系が鳥取の芸術文化をかなり支えたっていうところは言えるかもですよね。

 

── 近いところでいうと倉敷(大原孫三郎)もそんな感じですよね。民藝館もありますし。やっぱりお金はかなり大きいですよね。

 今回のツアーに先行して、9月末に鳥取短期大学の学生と一緒にプレツアーを予定しています。今年の6月には鳥取市で民藝スタディツアーを行ったそうですが、学生の反応はどうでしたか?

※鳥取民藝スタディツアーの様子はこちら(鳥取短期大学HP)

 

渡邊 興味を持つ学生とそうでない学生の2極化は避け難いところはあったんですけれども(笑)すごく良いと思い、民藝美術館の一品や家具を見て熱心に話を聞く学生も一部いました。あと阿弥陀堂も良かったですね。ちょうど天気が良かったので湖山池が綺麗に見えて。

 

── ちなみに、このスタディツアーは先生の発案ですか?

 

渡邊 ええ(笑)観光を学ぶ授業の一環なんですけれど、鳥取の観光資源としては民藝まだまだポテンシャルが大きいんじゃないかと。若い人も興味を持つと思うんですよね。

 


 

 

ツアーに向けて

── 民藝という言葉が生まれて大体100年が経ちましたが、各時代によって民藝の在り方も変わっていったと思います。今回のツアーは過去の出来事や足跡を辿ることがメインになっていますが、未来のこともツアーでは何か見つけられたらなと、思ってまして・・・(笑)

 

渡邊 おぉっ(笑)

 

── 過去を見つめて、未来を考える、という。

 

渡邊 温故知新ですよね。

 

── 白壁土蔵群の周辺エリアには長谷川富三郎も足繁く通っていた「山陰民具」という骨董店がある一方、「COCOROSTORE」のような現代の若い作家の作品を扱うお店もあったりして、今回のツアーではどちらも立ち寄りますが、販売するお店は結構充実しているなと感じます。ただ、全国的にも作り手の後継者不足というのは常にあって、途絶えてしまう原因としてはそこが大きいんじゃないか、と思っているところです。なかなか記憶だけでは継承は難しいんじゃないかと。今回のツアーがその解決になるような、大きな波にまではとはいきませんが、作り手が出てくるような環境も整えていかなければと思っています。

 

▼『COCOROSTORE』は今の鳥取で活動する作家の作品を数多く取り扱うほか、廃絶した玩具の復刻にも取り組む

 

渡邊 作り手を確保するためには生活が出来ないといけなくて、そうすると流通が大事なんですよね。作り手と買い手がちゃんといて、継承ができる。「意匠(※)」で徳吉英雄が、売り手と買い手と作り手が心を一つにしなければならない、ということを言っていて。

(※)長谷川富三郎らと親交の深かった倉吉の画家・徳吉英雄が発行していた民藝同人誌

それと、未来に繋げていくためにはいま我々がどんなものを日々の生活の中で使うか、なんですよね。我々がどういう生活をするかが、のちの世代のスタンダードを作っていく。中之島美術館の展示はよくできていて、最初と最後でうまいこと対にしていて。100年前と100年後ですね。
で、最後のショップがめっちゃ充実していました(笑)飛ぶように売れてて。さすがだな、と(笑)

 


という感じで(もっと掘り下げられたかなという聞き手の力不足も感じつつ)ツアーに向けたショートインタビューをお送りしました。
本ツアーでは更に詳しく解説するほか、ここでは出てこなかった話もたくさんあります。
なんだか気になるなと感じた方はぜひ、ツアーへご参加をいただけると嬉しいです。
お申込みお待ちしております。

『倉吉民藝ツアー〜白壁土蔵群・郷土作家の足跡編〜』ツアー詳細ページ

 

【引き続きリサーチ中です】

『倉吉の民藝』にまつわるエピソードや資料、ゆかりの品などをお持ちの方は是非お気軽にお話をお聞かせください。(担当:会見)

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