新着情報 TOPICS

【レポート】倉吉民藝ツアー 白壁土蔵群・郷土作家の足跡編

2023年11月5日に実施した『倉吉民藝ツアー』の、観光協会スタッフによるレポートです。
定員15名に対し、満員での開催となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

▶︎ツアー後にいただいた感想はこちら

 

【イベント開催のお知らせ】

2024年3月30日(土)にイベント『春の倉吉民藝アワー』を開催します。
入場無料です。ぜひたくさんの方のご参加をお待ちしております。


 

①民藝の理念と倉吉の民藝運動(ミニ講座)

ツアーは倉吉の民藝運動について以前から研究されている鳥取短期大学教授・渡邊先生のミニ講座で始まりました。

柳宗悦の唱えた「民藝」の理念と、それに影響を受けた倉吉の作家たちについて。参加される方が今回のツアーテーマに対してどのくらいの興味・関心と事前知識を持ってのぞまれるのか、企画時点では予想が難しいところでした。

鳥取大学公開授業講座の『民藝という「美学」』では倉吉の民藝運動と地域の魅力について講義を担当されている渡邊先生ですが、この度のツアーにあたってはまず「民藝」とは何かというところから出発したいと考え、「(一般的なところでの)民藝とは何か」「倉吉の民藝運動と作家たち」2つの内容で講義を依頼しました。

ツアー終了後のアンケートでは、事前知識なく参加した方からも「非常に分かりやすかった」「有意義でした」という声が寄せられ、約1時間という短い時間でしたが今回のツアーをスタートする上で大きな柱となりました。

※もっと多くの方が気軽にこの場に参加出来たら、その機会を作れたら良いな、と感じました。そして2024年春、3月30日に入場無料でイベントを開催することとなりました。イベントの宣伝ですが、ぜひご参加ください。タイトルは【春の倉吉民藝アワー】です。

 

②はこた人形工房

天明年間(1781〜89)に備後の国(広島県)から行商に来た備後屋治兵衛によって初めて作られたという『はこた人形』。

和紙を貼り重ねた張子の人形で、着物の美しい赤は厄除けを意味し、その上には打吹公園・羽衣池に浮かぶ桜の花弁と、打吹地区を流れる玉川が描かれています。はこた人形は、子供が怪我や病気をしないで無事に育ってほしいという願いを込めたお守りです。

戦後間もない頃に倉吉で開催された創作郷土玩具展では、倉吉の板画家・長谷川富三郎さんが「因伯牛」を、同じく染織家・吉田たすくさんが「尾ふり虎」を制作。その後にはこた人形を制作する備後屋・三好平吉(明)さんへ意匠が譲られたそうです。どちらも「はこた人形工房」によって現代に継承されています。

ツアーでは、2020年に倉吉はこた人形の研修生募集に応募され、現在作り手として活動中の牧田さんに作り手となったきっかけなどをお聞きしました。見る側から作る側に変わる瞬間。何かを始める時の気持ち。どなたにとっても心覚えがあり、自分に置き換えることが出来るのではないでしょうか。

はこた人形工房では、意欲的に新しい張子を制作されています。新たに加わった因伯牛の小サイズはとても愛らしくて、どこか勇ましさを持つ大サイズとは別の魅力を見ることが出来ます。これからどんな玩具が作られるのか、とても楽しみです。

 

③倉吉ふるさと工芸館

江戸時代に始まり大正時代に衰退、途絶えていたところを戦後に染織家・吉田たすくさんが苦心の末に復活させ、今も絣研究家・福井貞子さんを代表とする倉吉絣保存会によって受け継がれる「倉吉絣(くらよしかすり)」。深い藍色、絵絣と呼ばれる複雑な模様が美しい倉吉の伝統的な織物です。

館内に並ぶ商品には記名なく、名もなき作り手による仕事という点においては、乱暴に言うと最も民藝的といえるかもしれません。

ここでもはこた人形工房に続き、織り手の方に機織りを始められたきっかけをお聞きしました。そして織り手の方の顔が見えることで、無機質に並んでいたように見えた商品の見え方が変わってきました。

手に取った時の重み、これがどのようにして作られたのか、作る時どんな気持ちだったのだろうか、どんな生活の中で生まれたのだろうか、色々と考えてしまいました。

名前があることで生まれるストーリーと、名もないことの美しさ。どちらがよいという事ではなく、それについて頭を巡らせました。

短い時間でしたが機織りを数名の方に体験いただき、ツアー後には「老後は機織りをしたい」という感想もありました。実際に体験することで分かる楽しさ、難しさ。後に登場する環翠園での絣の見事さは、織りの仕組みを理解した上で見るとその技術の素晴らしさに、より驚嘆します。アンケートでは、体験に比重を置いたツアーの要望が多くありました。実現したいです。

 

④三好額縁店

白壁土蔵群の本町通りで画材・額装を扱う三好額縁店へ。

板画家・長谷川富三郎さんや、備後屋・三好平吉さんと直接の交流があった山下さんに、当時の思い出やエピソードをお聞きしました。ここでしか聞けないような、ちょっとした小話。ふらりと近所を散歩しているような親しみがありました。前述の因伯牛と尾振り虎の意匠についてのエピソードも、山下さんから語られたものでした。

何も知らないとパッと見て通り過ぎてしまいそうですが、実は店内には板画作品が飾られていたり、注意深く見てみると倉吉の民藝運動の足跡があることに気付きます。

最後には参加者全員にちょっとしたプレゼントまでご用意いただき、思わず心和みました。

ツアー後、版画を始めたいという方がいらっしゃいました。早速道具を買われたそうです。

 

⑤山陰民具

「民藝」ではなく「民具」と名付けられた山陰民具。店主の田村幹夫さんが小学生の時に、お父様が付けられたそうです。

それまでは「田村の骨董屋」などと呼ばれていたところ県内でも民藝運動が見られ、屋号に「民藝」を使おうとしていたそうですが、ただ「民藝」では面白くないと、みんげいの「げい」を発音する際に伸びて「さんいんみんげー」となるとなんだか締まりがない、ということから『山陰民具』(さんいんみんぐ)になったそうです。そう聞くと、ああ、確かに締まっているな、と納得します。

倉吉民藝ツアーパイロット版では田村幹夫さんにたっぷりとお話しいただきましたが、今回は田村さんのお母様からお話しをお聞きしつつ、国登録有形文化財に指定されている建物それ自体が骨董品といえる歴史の詰まったお店と中庭を見学しました。

店名が『山陰民具』になってから約60年。長谷川富三郎さんや高木啓太郎さんといった作家たちもここへ足繁く通ったと聞きます。民藝について白壁土蔵群のお店の方に聞いていくと、「山陰民具の田村さんに聞くといいよ」とよく言われます。民藝運動当時の空気感を知り、作家との親交も深かった田村さん。お母様はそれ以前の思い出をたくさんお持ちで、立ち寄りが駆け足になってしまったのが非常に惜しかったです。

全国的に叫ばれる後継者問題。以前、田村幹夫さんからそれについてお聞きしましたが、山陰民具も例外ではありません。何か別の形でも残していただけたら、と思いますがそれは無責任に他ならず、しかし、もしもなくなってしまうとすれば、とても残念です。

難しい問題ですが、何かないだろうかと思うばかりで、すみません。

 

⑥喜太亭 万よし

この日の最高気温は28度。11月とは思えないほど暑い1日となり、だいぶ疲れも見え始めたところで昼食の時間に。

倉吉に何度か訪れ、長谷川富三郎さんとも親交があった板画家・棟方志功さんが命名し、店内の至る所に作品が飾られる割烹『喜太亭 万よし』にて、名物の蒸し寿司御膳をいただきました。歩いた後の空腹も相まって更に美味しく召し上がられたことと思います。

大女将から語られる逸話、笑い話。また、ツアーならでは、初対面の皆さま同士や渡邊先生との会話など楽しまれていました。

今回食事をしたお部屋は「志功の間」と呼ばれ、棟方さんによる『喜太亭』の書が飾られています。そこに添えられた篆刻の逸話、ぜひ訪れる機会がありましたら聞いてみてください。

 

⑦小川氏庭園 環翠園

文化・芸術を愛した近代倉吉の実業家・政治家の一人である小川貞一による小川氏庭園 環翠園(かんすいえん)。

昭和28年には柳宗悦、バーナード・リーチ、濱田庄司を小川家7代目 小川貞寿が歓待するなど、民藝との関わりも深い小川家。同年に棟方志功が倉吉で絵付けを行った上神焼60枚の皿のうち1枚が、長谷川富三郎の書付とともに小川家に伝わっていますが、この日はその絵皿を鑑賞することが出来ました。

根鈴館長による収蔵品解説は、固有名詞を知らなくともその語り口で引き込まれ、一つ一つの作品に対して嬉しそうに、愛を持って接されていることが聞いているだけでこちらにも伝わってきます。

そして、庭園の紅葉。11月の開催を決めたのはこの紅葉に合わせたと言っても過言ではないのですが、良いタイミングで訪問が叶いました。パイロットツアーでは雨に濡れた石の艶やかさと重い雲に覆われた空の下の荘厳さがありましたが、今回は日差しを浴びる赤い葉のきらめきと静けさの中に揺れる葉音が、また違った美しさを表していました。

 

⑧COCOROSTORE

最後は鳥取の手仕事を扱うCOCOROSTOREへ。お店を始めたきっかけや、鳥取・柳屋の玩具復刻を進めるYANAGIYA REPRODUCTのことなどお話しいただきました。

柳屋は1928年から数々の玩具の名作を作り続けた工房で、近年惜しくも制作が途絶えていました。その玩具たちが今も大切に作り受け継がれ、本やケースの中で見るだけなく、実際に手に取ることが出来る喜び。個人的な話で恐縮ですが、柳屋の「堂内天神」という赤い小さな天神様の土人形を初めて見た時に、そのフォルムに衝撃を受け、既に制作されなくなっていたところ復刻されると聞いてとても嬉しかったです。現在、YANAGIYA REPRODUCTのラインナップに加わっています。

ツアー後には、「若いのに郷土の伝統を伝えていくことを気にかけ、頑張って仕事されていると感じた」という声がありましたが、作り手の思いや技術に対しての敬意と、使う方への心くばり。店主の田中さんからは作り手と買い手どちらにも真摯な姿勢を感じました。

お店に置かれている商品の価格帯もそれぞれ、自分にとって手が出ないものもありますが、出来る範囲で生活に取り入れてみるとなんだかいい気分になったりします。また、知人や家族に「何かいいものあげたいな」という時にも度々COCOROSTOREを訪れ、プレゼントを探しています。お店で選ぶ楽しさ、実際に見て手に取って、話を聞いて選ぶこと。そうして選んだプレゼントを渡した時、お店で聞いたことを相手に話したくなります。

このたび「民藝ツアー」と題しましたが、民藝というカテゴライズにとらわれすぎず、土地で生まれた器や家具、玩具など色々な角度での関わりを楽しんでいきたいと思いました。その楽しさを感じることの出来る場所が、倉吉にはたくさんありました。

 

番外編:徳岡茶舗

今回のツアーでは都合により立ち寄り出来ませんでしたが、徳岡茶舗さんにもツアーを企画する上でご協力いただきました。

ツアー中には、お店の外側に飾られた器(ご主人が絵付けされたものがあります)などを観光協会スタッフが紹介。

店内ショーケースにも倉吉の窯元・上神焼(かずわやき)の古い器などが飾られ、実際に買うこともできます。
機会がありましたらぜひお立ち寄りください。

美味しいお茶と素敵な器が待っています。

(写真2・3枚目は2024年の観音市での様子)

 

その他ツアー風景

ツアーでは、白壁土蔵群の町並みをガイドと共に散策しました。作家たちの足跡を辿る上で、ここがどのような町なのか見ていきたいという思いがありました。また開催にあたり、たくさんの方にご協力いただきました。本当にありがとうございました。

 


 

【倉吉民藝ツアー】参加者の皆さまの感想

ツアー終了後にいただいたアンケートの一部をご紹介します。たくさんの回答、誠にありがとうございました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

・全くの素人で参加しましたが、1日終わってみたら大変充実していました。ありがとうございました。 企画側がどうしてこのお店や場所を選んだのか、意図やつながりをもう少しオープンに話していただいても、現代のツアーとして記憶に残りそうです。それがまた民藝の新しい歴史の一つになればいいなと思いました。 新しい美術館でも、ぜひ定期的に民藝の展示をしてほしいなと思いました。

・まずは「民藝」の切り口で倉吉のポテンシャルを徹底して調査、発掘、研究、発信で5年計画でやってみてはどうか。 何か継続してできるチーム、研究者や現・元教員の参加を広げられないだろうか。兎に角、可能性は無限にあると思う。大事なことは継続すること。焦らないで一歩一歩、5年計画位でやることではないか。

・一緒にツアーを回った鳥取市の方が、民藝に関心のある大阪のご友人がこのツアーの内容を見て絶対行った方がいい!と言われ参加を決められたそうです。その鳥取の方に倉吉は窯元も版画も沢山ある。いい所ですね。ツアーに来てよかった。と言って下さりとても嬉しかったです。 私は倉吉在住なので近すぎてあるのが当たり前になり良さに気付かない所もあったので県外や市外の方からそう言われると観光資源になるのかな。と思います。

・実際に体験するツアー、間口を広くし幅広い年代が参加できるツアー、数回に分けて渡邊先生同行の深い話が聞けるツアーなど、今後のメニューに期待しています。

・当たり前や見慣れているものが、実はすごいことなんだと知りました。

・機織り体験が楽しかった。もっと織りたかった。老後は、機織りの継承者になりたい。

・もっと長谷川先生の作品そのものが見たかったです。 昼食時に参加者の方が渡邊先生に質問して皆さん耳を傾けていました。もっと渡邊先生の解説やお話が聞きたかったです。 最近民藝に興味をもった私のような素人でも参加しやすいリーズナブルな軽めのツアーもあったらなと思います。

・三朝に眠っている長谷川作品を常設できる施設の整備を期待しています。

・長谷川富三郎の作品を沢山見たい。どういう版画家だったのか。芸術的コメントも専門家から聞きたい。 民藝と教育がなぜ結びついたのか。当時の教員という高い社会的評価、給与など生活の安定も民藝に関われる条件の一つだと思う。 しかしそれだけならどこでも同じ条件。逆に教育の側からどういう成果があったのか。現場教員で問題意識を持って研究されている方はいないだろうか。

・申し訳ないのですが絣は地味だな、くらいにしか思ってなかったのですが、あんなに丁寧に作られて最後は土に帰るまで使う。ものを大切にすることを改めて思いました。説明して下さった方も絣の文化を大切に守っておられて、自分は物を大切に使うという気持ちが薄れていた事に気付けたので伺えてよかったと思いました。小川氏庭園はお庭や建物が素敵だったのも勿論ですが、歴史のある施設だと堅苦しい感じなのかな?と不安だったのですが根鈴さんのお話が軽快で楽しく、素人の何も知らない私でも引き込まれました。もっと長く聞きたかったです。

・少しでも倉吉のことを知っていただけることを期待しています。なかなか見られない所を見せて頂いたりしてとても良かったです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ほかにも、陶芸体験や宿泊付きのプランなど様々なご提案をいただき、特に『窯元ツアー』を待望される声が多くありました。

今回のツアーではまだまだ倉吉の手仕事や現代で活動する作家の方などご紹介しきれなかった部分がたくさんあり、また主催側の至らぬ点などもあったかと思いますが、今後もたくさんの方に興味・関心を持っていただけるよう、ご参加いただいた皆さまに満足いただけるようツアー・イベントの企画に向け努めてまいりますので、引き続き気にかけていただけますと幸いです。そしてもし、倉吉には何もないと感じている方がいるとすれば、それを覆すことができたら、覆すきっかけを作っていけたらと思います。

改めまして、ツアーにご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

一覧へ戻る